DOWAグループは、事業活動が環境に及ぼす影響を認識し、本業を通じた環境・社会への取り組みと、
自社事業における環境負荷の低減を経営における重要な課題と位置付け、グループ全体で取り組みを進めています。
鉱山・製錬事業をルーツとするDOWAグループですが、現在国内に保有するすべての非鉄金属鉱山は事業活動を停止しています。このような鉱山については、周辺地域の環境を守るため、陥没や山崩れなどによる災害の発生や廃水・廃棄物による環境汚染の防止を行うなど、活動停止後も鉱害防止の維持と向上に努める必要があります。
休廃止鉱山は、操業を休止または鉱業権が消滅した鉱山のことですが、管理者は定期的に鉱山と処理場の巡回点検を行い、鉱害防止および第三者に対する危害防止のための管理を継続して行う必要があります。1956年に設立された卯根倉鉱業は、秋田県大館市と岡山県久米郡美咲町に立地する2事業所で、北海道から島根まで全国20か所以上の休廃止鉱山の管理と坑廃水処理を行っています。
事業内容は、鉱山跡地の管理をはじめ、鉱さい等を堆積している集積場や設備の保守・管理、坑廃水の水質管理、周辺水質のモニタリングなどと幅広く、日々環境保全と災害防止に努めています。特に非鉄金属を採掘していた鉱山では、休止または廃止となった後も、重金属などを含む坑廃水が発生し続けることがあるため、これらの処理は特に重要な業務です。
鉱害防止は自然を相手にした業務であり、降雨や降雪などの気象の影響を受け山中に設置した設備が損傷したり、処理水の量や水質が変動するなど、その維持には専門的な知識と技術が必要とされます。また、巡視中の林道でマムシやニホンカモシカ、熊などに遭遇することもあり、現場では迅速な判断と対応が求められます。
このような維持管理にかかる負担の軽減のために、現在主要な処理施設は遠隔監視を行い、モニタリング状況の自動記録、濁度異常や停電の際には自動通報するシステムを取り入れて、業務の効率化を図っています。
閉山後の非鉄金属鉱山では、坑内に残った鉱石の一部が地下水や空気中の酸素と触れて酸化反応を起こし、酸性水や重金属を含む水が流出することがあります。また、採掘された鉱石のうち、金属の含有量が低いものを廃棄した集積場から、雨水や地下水によって有害重金属などが含まれる滲出水(廃水)が流出して河川に流れ込み、水質や農用地の汚染を引き起こすおそれがあります。坑廃水の処理は、健全な水循環と持続可能な水利用環境を維持するため、欠かすことのできない大切な事業です。
坑廃水はpH・重金属含有量・浮遊物質量などを排水基準以下に下げなければ河川に放流することができません。主な処理方法としては、石灰でアルカリ中和を行い、重金属を取り除いた水を川などに放流する手法が用いられます。
DOWAグループ全体で工程に使用する水資源のうち、最も量が多いものは冷却水として使用している「海水」ですが、ついでこの「坑廃水」の投入量が多く、24時間365日処理を実施しています。
休廃止鉱山における坑廃水処理は半永久的に続ける必要があり、低コスト・低環境負荷の効率的な処理法が求められています。卯根倉鉱業では、自然浄化を活用したパッシブトリートメント、温泉排水を利用した処理、鉄酸化バクテリアによる中和法など、坑廃水処理プロセスにさまざまな技術を導入して改善に努めています。
鉱山施設の中には、送電線が敷設されておらず電力設備を持たない処理場もあります。このため、電力を使わなくても処理を行えるよう、水量に合わせて石灰が投入される自揺動設備を採用し、効率的な中和処理を行っています。自揺動設備は「ししおどし」の原理を利用して自社内で開発したもので、省エネルギーと低コストに貢献しています。
坑廃水を処理することで発生する「中和殿物」は石膏や水酸化鉄などを主成分としています。そのままであれば廃棄物ですが、加工することによって脱臭剤として活用しています。また、坑廃水中の鉄を有効利用し、無機凝集剤(商品名:バイオフェリック)「ポリ硫酸第二鉄」を製造しリサイクルしています。バイオフェリックは下水処理場などで活用されており、廃棄物の削減と水環境保全に役立っています。