DOWAグループのCSR報告書の第三者意見を担当するのは今年で6年目となります。今年のレポートは、「DOWAのあゆみ」と題した特集において創業当初からの事業の変遷が語られており、DOWAグループのルーツをうかがうことのできる興味深い内容となっています。巻頭には、資源循環の全体像が図示されており、循環型社会を創造するキー・プレーヤーとしてのDOWAグループの役割を確認することもできます。
さらにページを進めると、「CSR方針と計画」が見開きの大きな表形式でわかりやすく掲載されており、DOWAグループの取り組み全体を俯瞰することができます。表中の2017年度の目標の内容は、前年と比べると具体性があり、改善が図られていることがわかります。ただし、2020年目標に向けたマイルストーンとして、単年度目標がどのように2020年目標の達成につながっていくのかがわからない項目もあり、単年度目標の設定内容やレベル感に関しては、改善の余地があります。環境パートにおいては、例年提示されているマテリアルバランスも一覧性に優れています。資源とエネルギーのインプットとアウトプットの全体像および前年度からの推移を把握することができるものとなっています。
ここ数年指摘をしていますが、人権課題については自社の考えを述べるとともに実務プロセスの中への人権配慮の具体的な組み込みを行っていく時期に来ているのではないかと考えています。また、2年前はタイ、昨年はインドにおける現地視察とヒヤリングを実施したことが報告されていましたが、今年のレポートでは人権関連の記載がなくなりました。ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する機関投資家にとっても、資源を扱う企業の「人権とコミュニティ」やサプライチェーンも含む「労働安全」に関する取り組みは、特にリスク把握の観点から大きな関心事項となっており、取り組み内容を開示していく必要があると考えます。例えば、事業を展開しているミャンマーは人権に関する懸念国としてESG評価機関や国際NGOからも指摘されており、事業推進と並行して自社の人権に対するスタンスが問われることにもなります。
ダイバーシティの推進が、中長期的に企業価値に結びつくということの認識が高まっています。政府は2020年までの女性の管理者層比率を30%程度に設定しており、各社計画的な取り組みを進めています。実数を見ると女性比率は若干の減少傾向にありますが、女性の総合職採用に力を入れていると言うことで、今後の実績に期待したいと思います。また業種特性における難しさはあるものの、障がい者雇用も政府が定める2.0%に達しておらず、どのような手を打っていくのかの説明が求められます。
また、昨年まで掲載されていた「事業と社会課題の関係性」に関する説明が削られているのは残念です。経営層が事業展開をするにあたり、どのような課題認識を持っているのかを読者にきちんと伝える重要なページとなっていたと思います。また、海外法人のCSR取り組みについての情報もなくなり、グローバルにおける各拠点での取り組みが見えづらくなった点は否めません。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、長期投資の視点からESGの重要性を説いています。株式投資を含むすべての資産運用にESGの視点を入れるよう投資原則を今年10月に改定しました。企業にとって、長期視点で企業価値の向上を期待する株主との関係性は重要であり、ESG情報開示にさらに力を入れて自ら発信していくことが肝要です。
「株主・投資家とのコミュニケーション」のパートで触れられているのは、従来からのIR活動に関するテーマのみとなっていますが、こうした活動に加えて今後は、機関投資家とのエンゲージメント推進に関する取り組みにも触れていく必要があります。そしてエンゲージメントのベースには、やはり積極的なESG情報開示が求められます。
深刻度を増す資源問題に対して、バリューチェーンを通してサービスを提供することのできるDOWAグループだからこそ、事業と一体化したESGをしっかりと伝えていくことで、中長期的な企業価値のさらなる向上につながるものと確信しています。
株式会社イースクエア
代表取締役社長
本木 啓生
(もとき ひろお)