DOWAグループのCSR報告書の第三者意見を担当させていただくのは、今年で7年目となります。毎年、報告書が進化していくのを楽しみしていますが、今年度の報告書でまず目を引いたのは、人材と組織の開発に関する特集です。人材面に関して顕在化している課題と将来的な課題の両面から分析をし、体系的に人材開発における中期計画を立てていることがよく分かります。研修センターもリニューアルを施し、人材を大切にするDOWAグループの意気込みが伝わってきます。
企業にとってマテリアリティ(重要課題)の設定は必要不可欠となりつつあります。事業に与えるインパクトといった自社の観点による重要性とステークホルダーからの期待や要請による社外の観点による重要性の2つの軸より評価を行い、DOWAグループにとってのマテリアリティを特定することは、経営者視点で企業経営とサステナビリティを統合させていくことにもつながります。機関投資家がESG(環境・社会・ガバナンス)の観点で企業を評価する際にもマテリアリティを重視していますし、国内外のグループ従業員が自社のマテリアリティを認識することは大切です。来年度に向けて、検討されることを推奨します。
「持続可能な鉱山開発」特集では、日本のモノづくりにおいて不可欠な金属を供給していくDOWAグループの社会的な役割認識がよく分かります。社会が必要とする金属素材を加工するために、鉱山から新たに生産される精鉱と、国内外で集荷する金属リサイクル原料という2つの原料から製錬を行っていることを説明しています。しかし、リサイクルだけでは伸び続ける世界の需要を賄うことができないとも言及しており、CSRレポートの読者としては金属資源の枯渇の問題が気がかりです。このままのペースで採掘が続くとあと20年以内に枯渇する金属もあるとの報告書も発行されています。事業経営の観点から資源枯渇の問題にどのような見通しを持ち、どのような対応をしていこうとしているのか説明されると良いと思います。SDGsが掲げるターゲット12.2「2030年までに天然資源の持続可能な管理および効率的な利用を達成する」に対する具体的な事業戦略につながります。
サプライチェーンマネジメントにおいては、サプライチェーン全体へのCSR推進について説明されています。現在、企業は自社内の取り組みだけではなく、サプライチェーン全体での取り組みに対する責任が問われるようになってきています。このような中、DOWAグループでは、セルフチェックアンケートを主要取引先に配布し、さらにフィードバックレポートを送付するなど、双方向のコミュニケーションを取りつつ真摯な取り組みをしていることが分かります。気になるのは、DOWAグループCSR調達ガイドラインが開示されていない点です。環境面や社会面を含め、具体的にどのような方針を示して、サプライチェーン全体の底上げを図ろうとしているのかを明確にされるとよいと思います。
世界各国でいま、サーキュラー・エコノミーへの関心が急速に高まりつつあります。EUでは、2015年にサーキュラー・エコノミー政策パッケージを打ち出し、経済の競争力を高めつつ、社会全体をサステナブルな方向に転換させようとする試みが始まっています。日本でも従来から政策的に循環型社会形成に力を入れてきていますが、現在注目されているサーキュラー・エコノミーの概念では、イノベーションを伴った新たなビジネスモデルの構築といった意味合いが強く、DOWAグループが本業において培ってきた強みが発揮できる領域ではないかと思います。他の企業、国際機関や政府機関、研究機関など他者とのコラボレーションを軸に、世界的なサーキュラー・エコノミー推進における先導役になっていただきたいと期待しています。
株式会社イースクエア
代表取締役社長
本木 啓生
(もとき ひろお)