DOWAグループのCSR報告書の第三者意見を執筆して5年目となります。回を重ねるごとに報告内容に進化が見られ嬉しく思います。今回の報告では、「持続可能な開発のための目標(SDGs)」の17目標のうち目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」をDOWAグループが最も貢献できる社会課題のテーマとして特定し、本業を通した具体的なアプローチ例を説明している点は興味深いところです。
サプライチェーン・マネジメントにも年間を通してより一層の力を入れていることが分かります。CSR調達ガイドラインとセルフチェックリストの主要顧客への配布を行い、取り組みが不十分な取引先に対する改善策の要請を行っています。さらに、重点取引先へは実態把握のためのCSR監査も行っているということで、CSR調達に体系的に取り組んでいることが確認できます。
人材のダイバーシティの推進にも力を入れており、採用段階からの仕組みづくり、海外スタッフの教育、女性活躍のプログラム設計など様々なアプローチによる施策を進めています。その結果「平成27年度なでしこ銘柄」に選定されたことは一つの目に見える成果でしょう。
紙面とWebサイトとの連動にも工夫が見られます。詳細な説明が必要な箇所にはURLのマークがあり、Webサイトにより内容を確認することができます。このことによってページ数は前年に比べて削減しつつも、報告内容は一層充実したものとなっています。
人権に関してはインド事業会社の現地視察とヒヤリングを実施するなど重要なステップを踏み出しているものの、DOWAグループ全体に適用できる人権方針がありません。サプライチェーンを通した人権課題への関心が高まるなか、人権デュー・ディリジェンスの体系的な取り組みが急務となります。
また重大事故に関しては、個々の状況があるので一律の対応は難しいと思いますが、CSR報告書の紙面もしくは関連WEBサイトにおいて事故原因と今後に向けた対策など、可能な限りきちんと説明をすることが望ましいと考えます。同様の事故を二度と起こさないよう、労働災害の防止に向け全社として真摯に取り組む姿勢を示すことが重要です。
ここ数年、CSR報告の重要性が世界的に一層高まっています。CSR報告のガイドラインであるGRIは2016年にスタンダード化され、世界標準としての位置付けが明確になりつつあります。そして、欧州連合(EU)では、域内各国の大企業を対象に、環境、社会、ガバナンス(ESG)の非財務情報開示を義務づける制度(非財務情報開示指令)が、2017年度から適用されることになります。また、金融面では主要な長期運用の投資機関がESG投資を採用するようになり、投資家が求める適切なESG情報開示を行うことが安定株主を獲得するためのカギとなります。
GRIで示されるように、DOWAグループにとってのマテリアリティ(重要課題)を自社の視点による重要性と社外のステークホルダーからの期待値や要請度の2つの観点より選定し開示することは、経営者視点で事業とCSRを融合させることにもつながります。バリューチェーンの最上流から最下流まで一貫したサービスを提供するDOWAグループの特徴ある事業形態ならではのCSRを追求し、もう一段階CSR報告のレベルアップを図っていくことを期待しています。
株式会社イースクエア
代表取締役社長
本木 啓生
(もとき ひろお)