株式会社イースクエア
代表取締役社長
本木 啓生
(もとき ひろお)
CSR報告書から読み取れるDOWAグループの取り組みには、毎年着実な進歩が見られます。今年度は、会社の歴史、財務と非財務の指標開示、5つの事業領域の説明にページを割き、また、「マテリアリティとCSR中期目標」における年表の中でマテリアリティの特定、重点施策の選定、ESG分野のリスク評価を実施してきた経緯などが説明されています。重点施策としては、責任ある鉱物調達の取り組みが詳細に説明され、ホームページと連携を図るかたちで改訂した責任ある鉱物調達方針、第三者による監査結果などが開示されています。それ以外にも、コーポレート・ガバナンスの説明の充実、事業リスクとCSRリスクを包含したリスクマネジメントの説明、労働災害の発生状況についての原因分析など、報告書の随所に改善が見られます。
CSR計画と目標の一覧には、重点施策ごとに進捗を把握するための指標の説明があり、本文では4つの重点分野ごとに活動の進捗状況が示され、会社全体の進捗状況を把握することができます。一方、気になるのはマテリアリティ・マトリックスの中の要素や4つの重点分野に含まれていない、事業に直接結びつく課題があると思われることです。例えば、責任ある鉱物調達に関する課題は含まれていません。2020年度以降に予定されている見直しにおいては、事業とCSRをさらに統合して評価・分析できると会社としての一貫性が出てくると思います。
また、事業領域の説明において、関連する社会・環境課題や事業におけるジレンマなどについても記述していくと良いでしょう。例えば、紛争鉱物や人権侵害リスクは重点施策としては記述されているのですが、5つの事業領域として事業領域毎に報告しているページでは触れられていないため、会社としての思考が統一されていない印象を受けてしまいます。
いま、企業の中長期的な価値創造において、パーパス(存在意義)の重要性が世界的に再認識されています。その点、DOWAグループでは企業理念において「当社は地球を舞台とした事業活動を通じ、豊かな社会の創造と資源循環社会の構築に貢献する」とパーパスが明確に謳われています。全従業員が自らの業務とパーパスの関連性を再認識することで、非常に強い組織になると考えます。人類の発展に必要とされる貴重な資源供給の担い手として、DOWAグループの課題解決能力に大いに期待しています。